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日本列島波高し~元海自幹部のエッセイ~ >> 日本, 軍事, 自衛隊 >> 有害無益な「武器輸出三原則」

2005年11月25日

有害無益な「武器輸出三原則」


 連載も何とか十回目を迎えることができました。
 今日は話の最後として、武器輸出について思うところを書いてみます。
 
 我が国の兵器産業は第二次大戦後も相当の生産能力がありました。
戦後一度は滅びかけた兵器産業ですが、朝鮮戦争では国連軍の兵站基地として国内のくず鉄が品薄になるほどの活況を呈しました。

これがやがて、1967年の佐藤内閣で「武器輸出三原則」が出されて共産圏や紛争当事国への輸出が出来なくなり、1976年の三木内閣のいわゆる「武器輸出三原則の厳格適用」によりトドメを刺されてしまいました。

実に戦後も31年を経て、自衛隊も徐々に整い始めた時期のことでした。

 三木内閣は田中角栄退陣後のドサクサの緊急避難内閣の感が強く、党内基盤が弱かったためマスコミ世論に媚びる傾向があり、国民に不人気な政策の遂行など願うべくもない状況下で上記厳格適用が政策化されてしまいました。

 これは戦後政治の失政のなかで殆ど目立たず、今でも三木政治の成果と考えている人達が少なくありません。しかし、これは今に尾を引く大失敗であったと感じています。それは次のような理由に因ります。


1.量的武器製造能力が低下して、防衛予算の高騰を招いた。

 武器は平時には消耗がありません。訓練に使われる消費量なんて、実戦に比べれば微々たるものです。その一方で近代軍の使用する武器は、大は艦艇、航空機から小は電子機器部品に至るまで多岐にわたります。典型的な少数多機種で且つ高度な信頼性を求められるので、開発費や製造費の高いものばかりです。

 世界中の先進各国は、自国軍用武器の製造コストを削減し、有事に備えて製造設備を維持するため、武器の輸出に熱心です。長い間、平和を保っているスウェーデンやスイス等もその典型例で世界各国に輸出していますし、ドイツも得意な在来型潜水艦のセールスに熱心です。韓国なども世界に売れる武器を開発しようと躍起になっています。

 一年に数台しか作らない我が国の戦車と3000両以上を生産するロシアのそれでコストに大きな差が出るのは容易に想像できます。単に人件費の差だけではありません。

 日本の防衛費ベースの軍備は世界の大国並みです。しかし、その実態は世界最高の人件費とロールスロイス並の少数手作り生産の武器値段によるものです。

我が国の防衛費は今よりも格段に安くできます。
あるいは、今と同額ならば遙かに多い兵力が維持できます。

そのためにやるべきことは単に武器輸出の許可だけで良いのです。
国家財政の超赤字を解消するためにもぜひ武器輸出を解禁すべきです。


2.武器の研究開発能力が低下して、相対的な戦力の低下を招いた。

 「戦史は科学技術発達史なり」と言われるように、軍事的ニーズが科学技術の発達を推し進めた側面があることは否めません。航空機の発達などはその典型です。

そして有事には「国の命運を賭けた勝敗」がからむ軍事技術も、平時は「神の見えざる手」に導かれた国際商品です。安価で高性能、「武人の蛮用」に耐える頑丈で平易な使い勝手、そして高い信頼性。これらの諸要素が世界市場で過酷な販売競争に曝され、地球上のどこかで実戦に使われ、そして高い評価を得てこそ「自国の装備兵器は一流」と胸を張って言えます。

 いわゆる「チャンピオン・データ」は何処の国の製品も似たようなものです。
武器の本当の性能は平均値よりもむしろ下限値です。「最悪の条件の下でもこれだけの性能が出る」でなくてはなりません。それはしばしば実戦場でしか分からないものです。
 
 また、自分で研究開発した苦労の経験がなければ敵の革新的技術も理解できません。かつてソ連のMIG25戦闘機が函館に亡命してきたことがありました。
その機体は当時のソ連の軍事技術の粋でしたが、調べた航空自衛隊技術者ではその真の価値は解らぬことだらけでした。米空軍の技術者が来て、一見して発した「奴等はこうやっていたのか!」という喜悦の声と説明でようやく「そういうことか!」と解ることが沢山あったのです。以前に書いた「翼の舵を動かすワイヤの震動押さえのリングの話」等がこの例です。

 我が国の現状のような自国用だけの少量生産では、研究開発の予算も限られ、本当に優れたものかどうか分かりません。かつて我が国が世界一流を誇った掃海能力も、いざ湾岸戦争後に派遣されて列国海軍とコンペ状態になってみると、海上自衛隊のそれは人の手への依存度の高い「工芸的掃海術」で、「カミカゼ掃海」と世界が驚くようなものでした。先進各国の掃海は遙か以前に遠隔操縦ロボット掃海に移行していたのでした。


3.武器輸入国は敵に回らない、という選択肢を放棄した。

 武器輸入国がその輸出国と軍事的対立関係になる危険性は極めて低いことは歴史上明かです。それは単に武器の補給という命綱を握られているためばかりでなく、「武器の運用思想」等を通じて国防政策や同盟政策までもが徐々に影響を受けるからです。

 つまり、武器輸出はそれ自体が極めて有効な安全保障外交政策であり、かつまた貿易収支的にも無視できない大きなものとなるため、経済通商政策的にも極めて大きな影響が期待できます。

 湾岸の国々はかつて日本に何度も武器輸出を打診してきています。かの国々の動向が我が国のエネルギー政策に大きな影響力を及ぼしていることを思えば、折角の貴重なチャンスを逃していることは愚策としか言いようがありません。


4.さらに武器輸入国は強力な友好国になる可能性が大きいのに・・・

 武器輸入国はその輸入に関連して若くて優秀な軍人を輸出国側に留学させるケースが非常に多く、しかも発展途上国では彼等が後年に高位高官となって国政に参画する可能性が高いのです。そのとき、若いときに学んで好印象を持った国とは必ず友好的関係になるものです。それは現在の途上国の指導者の殆どが、若い時代にそれぞれの外国に留学した経験を生かして、それらの国との関係強化を求めていることでわかります。


 今まで、るる書いたように、武器輸出三原則は我が国にとって有害無益です。
「死の商人、云々」は単に情緒的なものでしかありません。

 もちろん、今までの政策を急に変えれば国際政治に様々な影響があることは否めません。特に我が国のハイテク技術で顧客を奪われるかも知れない国々はナーバスにもなるでしょう。

しかし、ここは国益の何たるかをシッカリ見極めなければなりません。

武器輸出三原則は今すぐに廃棄すべき愚策です。


以上、ヨーソロの管見でした。


「日本列島波高し~元海自幹部の視点~」 メールマガジン「軍事情報」別冊より


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